去来抄

末成俳句

元禄15年(1702年)から宝永元年(1704年)にかけて成立したと見られる、向井去来の著書「去来抄」。松尾芭蕉の高弟であった去来による俳論となっており、蕉風を理解する上で最も重要な文献であるとされる。芭蕉研究においては、決して欠かすことの出来ない書物である。
上中下の三部構成であり、それぞれ「先師評」「同門評」「修行教」となる。

去来抄 叙

去来抄 上 先師評


     蓬莱にきかばや伊勢のはつ便り 芭蕉
     からさきの松は花より朧にて 芭蕉
     行く春をあふみの人とをしみける 芭蕉
     此木戸や錠のさされて冬の月 其角
     うらやましおもひきる時猫の恋 越人
     こがらしに二日の月の吹きちるか 荷兮
     春風にこかすな雛の駕籠の衆 荻子
     清瀧や波に塵なき夏の月 芭蕉
     涼しさの野山にみつる念佛哉 去来
     面楫やあかしのとまり郭公 荷兮
     君が春蚊帳は萠黄に極りぬ 越人
     振舞や下座に直る去年の雛 去来
     田のへりの豆つたひ行く蛍かな 萬乎
     大としをおもへば年の敵かな 凡兆
     賽銭も用意顔なり花の森 去来
     月雪や鉢たたき名は甚之丞 越人
     きられたる夢はまことか蚤の跡 其角
     をとと日はあの山越えつ花ざかり 去来
     病雁の夜寒に落て旅寝かな
     海士の家は小海老にまじるいとど哉
     岩鼻やここにもひとり月の客 去来
     うづくまる薬の下のさむさ哉 丈草
     下京や雪つむうへの夜の雨 凡兆
     猪の寝に行くかたや明の月 去来
     蘿の葉の―――何々とやらん 尾張の人の句なり
     下臥につかみわけばやいとざくら
     手をはなつ中に落けり朧月 去来
     泥亀や苗代水の畦うつり 史邦
     じだらくに居れば涼しき夕べかな 宗次
     霊棚の奥なつかしや親の顔 去来
     夕すずみ疝気おこして帰りけり 去来
     つかみあふ子どものたけや麥畠 游刀
     いそがしや沖のしぐれの眞帆片帆 去来
     兄弟の顔見あはすやほととぎす 去来
     につと朝日にむかふ横雲
     青みたる松より花の咲きこぼれ 去来
     梅にすずめの枝の百なり 去来
     船にわづらふ西國の馬 彦根の句也
     弓張の角さし出す月の雲 去来
     丁稚が擔ふ水こぼしけり 凡兆
     ほんとぬけたる池の蓮の實
     咲く花にかき出す縁のかたぶきて 芭蕉
     くろみて高き樫木の森
     咲く花に小さき門を出つ入りつ 芭蕉
     綾の寝まきにうつる日の影
     なくなくも小さき草鞋もとめかね 去来
     二つにわれし雲の秋風 正秀
     中連子中きりあくる月影に 去来
     分別なしに恋をしかかる 去来
     浅茅生におもしろげつく伏見脇 芭蕉
     赤人の名はつがれたりはつ霞 史邦
     駒牽の木曾やいづらん三日の月 去来

去来抄 中 同門評


     腫ものに柳のさはるしなひ哉 芭蕉
     雪の日に兎の皮の髭つくれ 芭蕉
     山路来て何やらゆかし菫草 芭蕉
     笠提て墓をめぐるや初時雨 北枝
     春の野をただ一のみや雉子の聲 野明
     馬の耳すぼめて寒し梨子の花 支考
     白水のながれも寒き落葉哉 木導
     うの花に月毛の駒の夜明かな 許六
     起きさまにまそつと長し鹿の足 杜若
     乾鮭と鳴鳴行くや油づつ 雪也
     鶯の鳴て見たればなかれたか 作者しらず
     鶯の舌に乗てや花の露 半残
     うぐひすの身をさかさまに初音哉 其角
     鶯の岩にすがりて初音かな 素行
     桐の木の風にかまはぬ落葉哉 凡兆
     駒買に出迎ふ野辺の芒哉 野明
     あらし山猿のつらうつ栗の毬 小五郎
     花散て二日居れぬ野原かな
     散時の心安さよけしの花 越人
     電のかきまぜて行く闇夜かな 去来
     ほととぎす帆裏になるや夕まぐれ 先放
     とられずば名も流るらん紅葉鮒 玄梅
     鞍壺に小坊主のるや大根引 芭蕉
     夕ぐれは鐘をちからや寺の秋 風國
     應々といへどたゝくや雪のかど 去来
     幾年の白髪や神の光りかな 去来
     白雨や戸板もさゆる山の中 助童
     さびしさや尻から見たる鹿の形 木導
     唐黍にかげろふ軒や霊まつり 洒堂
     霊祭うまれぬさきの父恋し 甘泉
     御命講やあたまの青き新比丘尼 許六
     門口や牛王めくれて初しぐれ 作者不知
     猪の鼻ぐすつかす西瓜哉 卯七
     饅頭で人を尋よやまざくら 其角
     あさがほに箒うちしく男哉 風毛
     年立つや家中の禮は星月夜 其角
     元旦や土つかふたる顔もせず 去来
     盲より唖のかはゆき月見かな 去来
     牽牛花の裏を見せけり風の秋 許六
     しぐるるや紅の小袖を吹きかへし 去来
     はつのゐのこに丁どしぐるる
     生鯛のひちびちするを臺にのせ
     どこへ行やらうらの三助
     梅の花赤いは赤いはあかいかな 惟然
     行ずして見る五湖煎蠣の音を聞 素堂
     なき人の小袖もいまや土用ぼし 芭蕉
     梅白しきのふや鶴を盗まれし 芭蕉
     うぐひすの海向いてなく須磨の浦 卯七

去来抄 下 修行教



去来抄中に見られる俳諧論

●詞を細工してはならない
●言い果してはならない
●本情を失ってはならない
●切字が2つあること
●句を詠むこころ
●「しおり」について
●季節を2つ入れること
●不易流行
●不易の句とは
●流行の句とは
●細み・しおりとは